小児科医って必要ですか?

小児科の外来診療をしていて、ふと思うときがあります。

今、自分のやっていることに何か意味があるんだろうか?

まあ、何の仕事をしていてもそういう疑問ってのはあるんでしょうが、開業されている先生とお話していても、ときおり似た話題が出てくることがあります。

ブルシットジョブという言葉があります。

米国の人類学者デヴィッド・グレーバー教授が著書「ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論」で提唱した概念とのことです(Wikipedia調べ)

グレーバー教授はその中で社会的仕事の半分以上は無意味と断じ、「完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態」をブルシット・ジョブと名付けました。

クリニックや市中病院の外来診療は、いわゆる『かぜ』の診療が大半を占めるわけですが、ぶっちゃけブルシット・ジョブに片足を突っ込んでいる気がしなくもないです。

『風邪』とGoogleで調べると、

風邪(かぜ)とは

風邪は、正式には「風邪症候群」といって、一般的にくしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳、たん、発熱などの症状の総称を指します。 小児から老人まで、幅広くかかる一般的な病気です。 主な原因はウイルス感染であるため、基本的に特効薬はありません。

と出てきます。全くその通りで、それ以上でもそれ以下でもありません。

繰り返しますが、かぜに特効薬はありません。

症状を緩和するための薬はありますが、ぶっちゃけ飲んでも飲まなくても大して症状に変わりはありません。

ほとんどの小児科医(内科医も)は、数分問診しながら電子カルテをカチャカチャして、聴診して(しない奴もいる)、喉を見て(みない奴もいる)から

「かぜだね。水分をとって休息してください、周囲に感染させる可能性があるので治るまでなるべく他の子との接触は避けましょう、症状が悪くなるようであれば再診してください」

と言って、適当な風邪薬とカロナールを処方して終わり、って感じの診療が多いんじゃないでしょうか。

実際、これ以上にやりようもないんですけどね。

コンビニのバイトより簡単そうな仕事に見えませんか?

キッザニアに遊びに来た小学2年生でも出来そうです。

そういえば、私の祖母は「小児科医は、大人を診る能力がなかった医者が仕方なく就く職業」だと本気で信じており、私が小児科医になったことを微妙に悲しんでいました(笑)

どうなんでしょう。

実際、こういう『ほっといても治る子』の立場になってみると、だいぶしんどい気もします。

「おでかけ」するよと騙して病院に連れて来られ、冷たい聴診器を胸に当てられ、無理やり押さえつけられて木のヘラを口に突っ込まれオエっとさせられ、鼻の穴にをぶっ刺された挙句に、「ありがとうございました」謎にお礼を言わされる。家に帰るとたいして効きもしないマズい薬を飲まされる。

子供にとっては屈辱以外の何物でもないんじゃないでしょうか。

これでウイルス感染に対して抗生剤(抗菌薬)でも飲ませようものなら、まさにキング・オブ・ブルシット・ジョブです。(ウイルスかぜに抗菌薬は無効です)

小児科医って何なんでしょうか。

ぶっちゃけると、これらほとんどの診療行為は無意味です。

虚無虚無プリンです。

これらの診療は大変に空虚でクソ面白くもありません。

このままでは結論「小児科医不要」で話が終わりそうですが、もう少しお付き合いください。

小児救急とは

有名な話ですが、小児の夜間救急を受診する患児のなかで、実際に重篤なケースは1/50程度と言われています(1(1/100という説もあります)

これは、ある程度はしょうがない部分もあります。

誰だって自分の子供が急に謎の熱を出してぐったりしていたら不安になるでしょう。

いちおう#8000とかありますが、あれも実質たいして機能していないので、現実的には不安が晴れないようなら親としては病院を受診するしかないのです。

「親の不安を解消するのも小児救急の役目だ」とは研修医時代の恩師の先生の言葉です。

大変素晴らしいことだと感銘を受けましたが、その次の次の当直の日に同じ先生が「この仕事はクソだ!『カロナールの自動販売機』を病院の前に置けば良い!」とブチ切れながら吐き捨てていたのを私は確かに見ました。

実際私も、その後少なく見積もって2万回以上は同じセリフを吐き捨てています。

医療システムとかなんとかの話は一旦置いておいて、何のためにこんな虚無い仕事をしているかというと、これは一つしかありません。

一定数、『かぜ』に擬態した地雷がいるからです。

地雷を見逃すと、患児は重篤化し、後遺症を残し、最悪死にます

個人的には(夜間含め)かぜを診る小児科医は地雷発掘業(マインスイーパー)本質だと思っています。

帰したらヤバい系の地雷いかに見逃さず、虚無症例をいかに手早く捌くか(手早く捌きつつも、必要十分に説明しご家族の不安を解消することも重要。クレームをもらうと余計に手間取る)

それがこのゲームの醍醐味です。

常識的に考えるとそういうリスクしかない仕事やるべきでないという話になるかと思います。

たいして給料はもらえないし、たまにキチガイのクレーマーもいる(→ 幸いなことに一般にイメージするほどの数はいない)、別にカッコよくもないのでモテない(マジで)

それでも、私はこの仕事がわりと好きです(ホントにホントだよ)

地雷を見逃さず、ちゃんと発見して、ちゃんと治療する。

何万症例に一つかでも、『オレでなきゃ見逃しちゃう地雷』をきちんと処理して救えたら。

牛のクソの中にも、何か意味を見つけられるんじゃないかと思っています。

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